• 中野 裕弓

金魚鉢の鯉

暑い毎日、金魚鉢の中をスイスイ泳ぐ金魚たちの姿に涼を感じます。

以前、友人が大津駅の近くに小さな喫茶店を経営していました。

そこにお邪魔したとき、驚きの発見がありました。

そのこじんまりした昔ながらの喫茶店には真ん中にUの字になったカウンターがあるだけ。
席数も10席足らずでしたがおいしいコーヒーとオーナーのお人柄でお店はいつも賑わっていました。

カウンターにはその形に沿ってU字型の水槽がしつらえてありました。
喫茶店の常連さんで水槽会社の方が特注で作ってくれたそうです。

コーヒーを飲んでいると目の前を水草を縫って金魚や小さな鯉がスイスイ泳いでいてなかなか風情のある素敵な雰囲気でした。

ふと目を転じると外に面したウインドウにも大きな水槽がありました。
窓の外まで見える大きな水槽には大きい鯉が何匹もゆうゆうと泳いでいます。

鯉もいろいろなサイズがあるんだなぁと感心しながらオーナーに聞きました。
「カウンターの水槽の鯉はどれぐらい経ったら、あの窓側の水槽に入る位に大きくなるの?」と聞いてみました。

友人によると、なんとどちらの水槽の鯉も同じときに山の池からつれてこられた稚魚でした。

え?え?びっくり。
何が違うの?餌かしら?
頭の中でぐるぐる疑問が湧きました。

その説明を聞いてほんとにびっくりしました。

なんと鯉は自分の生息する場所、その範囲に合わせて自分の体を成長させるのだそうです。

ということは、
山の池から連れてこられて、カウンターの水槽に入れられた稚魚は泳いでいるうちにそのスペースの大きさを学習してそこに無理がないように体長を合わせます。
だから一緒に泳ぐ金魚とあまり変わりないサイズのままでした。

ところが窓辺の大きな水槽に入れられた鯉は広い水槽を自由に泳ぎ回ってるうちに、ここならもっと大きくなれると思って、どんどん体が大きくなったというわけ。
餌が違うわけでもありませんでした。

その鯉の能力には驚きました。

そして、これって人間にも当てはまるのではないかと思ったのです。

小さな世界の中にいたら、生き方は小さいまま、でももし大きな世界に飛び出せば、活動はどんどん広がって、自分自身も大きくなるということですね。

もし自分が小さな金魚鉢に飼われている鯉だと気がついたら、金魚鉢から飛び出しましょうよと言いたくなります。

ところが私たちは知っているのです、身の程知らずに飛び出した鯉が地面に落ちてひからびたことを。
池に向かって飛び出したのに、飛距離が足りなくて挫折したことを。
外に飛び出したら、外敵も多くなりやられてしまった仲間も。

そういう例を聞くたびにますます怖くなって、無難が一番と自分の世界を飛び出そうとはしません。
そして今の状況を「狭い狭い」と文句ばっかり言うことになるでしょう。

この話を聞いて、ある人がこんなことを言いました。
「金魚鉢から急に飛び出すのは怖いから、まずは金魚鉢を何らかの方法で、池のそばまで動かそう。そして確実に行けると思ったら飛び出せばいいよね」と。笑

また別の人からは、こんなワイルドなアイディアが。
「だったら何らかの手段を使って金魚鉢ごと池に浮かんだらいいよ。

そしたら金魚鉢の水温と池の水温を慣らすことができるし、池の中の様子は見えるけれど、ガラス越しなので怖くない。

そして慣れてきたら、自分のペースで飛び出せばいいんじゃない?」と。

今の若い人らしいなかなか斬新で面白いアイディアだなと思いました。
安全を担保しながらできるだけリスクを回避して新しいことに果敢にチャレンジする…

金魚鉢の鯉と自分を重ねてみると面白いです。

周りを見回して、これなら行ける!と思ったときに、思い切って飛び出してみたらどうでしょう。
今まで金魚鉢からしか見えてなかった広い世界が自分の遊び場になるのです。
新しい仲間も増えることでしょう。

ちょっとは怖い思いをするかもしれない。
でも、そのたびにそれを乗り越える情報や助け合える仲間が怖さをエキサイティングな体験に変えてくれるでしょう。
そしてあなたの世界は確実に広がっていく…

そろそろ金魚鉢、飛び出してみませんか?
安全なところまで移動してからで大丈夫ですから。

喫茶店のカウンターの鯉と、窓辺の水槽の鯉たちが、私たちの可能性を広げてくれたショートストーリーでした。

2025.8.8
Romi

SNSSHARE

この記事をシェアする

COLUMNIST
中野 裕弓
人事コンサルタント
ソーシャルファシリテーター
中野 裕弓
HIROMI NAKANO
続きを見る

19歳で語学研修のためロンドンに渡り、その後9年に及ぶ英国生活を経て、
東京の外資系銀行、金融機関にて人事、研修などに携わる。

1993年、ワシントンD.Cにある世界銀行本部から、日本人初の人事マネージャー、人事カウンセラーとしてヘッドハントされ世界中から集まったスタッフのキャリアや対人関係のアドバイスに当たる。

現在は一人ひとりの幸福度を上げるソーシャルリース(社会をつなぐ環)という構想のもと、企業人事コンサルティング、カウンセリング、講演、執筆に従事。 また2001年に世界銀行の元同僚から受けとったメッセージを訳して発信したものが、後に「世界がもしも100人の村だったら」の元となったため、原本の訳者としても知られる。

「自分を愛する習慣」をはじめ、幸せに生きるためのアドバイスブックや自分磨きの極意集、コミュニケーションスキルアップの本など著書多数。

2014年の夏、多忙なスケジュールの中、脳卒中で倒れ5ヶ月の入院生活を経験する。
現在はリハビリ療養の中で新しいライフスタイルを模索中。脳卒中で倒れたことが人生をますます豊かで幸せなものにしてくれたと語る。

他のコラムニストを探す
中野 裕弓の記事
中野 裕弓の記事一覧へ
肌改善 リフティング認定