みなさま、こんにちは!
ドクターリセラをこよなく愛するフリーアナウンサーの魚住りえです。
先月の話になりますが、父が亡くなりました。
89歳。
癌が転移して、高齢ということもあり、色々とどうにもなりませんでした。
東京オリンピックが決まった時から、心待ちにして、毎日指折り、楽しみにしていました。
なのに、オリンピック開会式の12時間前に、息を引き取りました。
生前、お見舞いに行くも、コロナ禍で病室に居られる時間はわずか15分。
限られた時間の中で、毎日「お父さん、あと○日で開会式だよ!がんばって!!」
と声をかけ続けました。
人工呼吸器やら栄養を入れる管があらゆるところにたくさんとりつけられていて、父は、食べることはおろか、話す事もできなくなっていたので、コミュニケーションの手段は、わずかな瞬きと眉の動きだけ。
それだけでも、yes、no、だけでない感情の機微も汲み取ってしまえるなんて、人間のコミュニケーションスキルは言葉だけではないんだなと感じました。
そう感じたのは、お酒が大好きな父宛に届いた美味しい日本酒(山口県の獺祭の純米大吟醸!!)を私が飲んでしまい(父は最期、水も飲むことが出来なかったので、母が代わりに飲んでいいよと言ったので・・・)、そのことを報告した時でした。
「お父さん、毎年頂く獺祭、お父さん入院してるし私が飲んじゃった。ごめんなさい~~」と謝ると、父は一瞬目を細めて、そのあと少し泣きそうな感じで目尻を下げました。その瞬間、父の「そうか~、りえに飲まれたかあ(笑)」という嬉しい気持ちと、「自分も一緒に飲みたかったのに、悔しい。悲しい」という二つの感情を目の動きだけで感じることが出来ました。
ほんの一瞬、わずかな目の動きだけでも、相手に気持ちは伝わるのですね。
ところで、今月発売の拙著「1秒でこころをつかめ。」は、幼い頃から父がよく口にしていた「声の力」と「聞き上手であれ」が礎になっています。
脳外科医だった父は、患者さんの話をじっくり聞くことで有名でした。
下手をすると1時間!でも聞くのです。
そのため、診察室の前は毎日患者さんの長い行列ができてしまい、文句も出ていたと思うのですが・・・
最後まで患者さんの話を聞いた後、父は低い声でゆっくりと治療法を説明していたそうです。
検査の結果、脳腫瘍など出来ていないことが分かっていても「頭痛がするのは頭の中に癌があるからだ」と言い張る患者さんに、「では癌が治る飲み薬を出しますね。もう大丈夫ですよ」といってビタミン剤を処方したそうです。
父が粘り強くその患者さんの話を聞き、出したビタミン剤で頭痛がすっかり治ってしまったので、患者さんがとても喜んでくれたと父が嬉しそうに話していました。
納得するまで話を聞き、じっくり話すことで、場合によっては薬の力に頼らずとも、患者さんの痛みや苦しみを取り去ることが出来るのだと、父から教わりました。
たった一瞬、たった1秒、立ち止まって、相手のために気持ちを込める。
その積み重ねが大きな波となり、人生が変わっていき、相手の人生をも変えていくのかも知れません。
虫の音を聴きながら秋の夜空を眺めると、天国にいるであろう父が「生きてるうちが華。悔いのないようにガンバレ!」と言ってくれてるような気がしているこの頃です。