忘年会も新年会も自粛して、夜の外食も我慢の日々を過ごしてもうすぐ春が来る。
冬が終る前に、私にはどうしてもやるべきことがある。
イノシシ定食を食べること。
早くしないと、今シーズンのイノシシが終ってしまう。
京都府宇治市の自宅から、国道を一本道でいくつか山を越えて約40分。
山間にひっそりたたずむ田舎のおうどん屋さん。
いつも駐車場には車が絶えず、ライダーの方達も必ず居て、美味しいことをきっと多くの人が知っているんだと思う。
この先を少し行ったところに日本六古窯の一つ、たぬきの焼き物が有名な信楽焼の里<信楽街道>通称たぬき街道がある。
ゆらゆら見ながらお皿や花瓶や植木鉢とかを、気に入った時はひとつ買って帰る、イノシシとのセットコース。
どちらを先に行こうか迷い、ランチと決めてイノシシ定食を注文。
お店の方が何も言わなくても、注意書きなんか無くても、誰も狭い店内で待つことをせず、自然に外に出て順番を待っている。
一人しかいないフロアの方も、テーブルやメニューは勿論、椅子の座面も手すりも背もたれまで慣れた手付きでアルコールで拭いている。
Withコロナの定着を感じながら、さりげない配慮って、本当に気持ち良いと思う。
そしてコレっっ
一見、普通のタン塩のような感じだけど、とにかく脂が本当に美味しい。
隣のライダースーツを着たおじさんがイノシシのおうどんを注文し、今日のイノシシは終わりですと。
次の方も、その次の方も、そのまた次の方も。
豚の角煮ならありますよと。
私のイノシシが、本日のラストイノシシ。
得体の知れない勝利感。
溢れ出す幸福感。
体の底から込み上げる、この優越感はいったい何なのか。
豚もイノシシも似たようなもので、
このお店の角煮はトロットロッに煮込まれて、間違いなく絶品。
にもかかわらず、ここで豚の角煮をいただく時は、必ず大きな敗北感の中にいる。
辛いことや悲しいこと、悔しい思いは同じ数だけ人の気持ちが分かるようになり、同じ分だけ人に優しくなれるから、沢山経験しなさいと、子供の頃から父に教えられて来た。
次の注文が決められず悩んでいる隣のライダーの気持ちが、痛いほど分かるような気がする。
窯元と書いてある店先で、
大きな布袋さんが余りにも笑っているので、一緒に写真を撮らせていただいた。
布袋尊は七福神の中の神様で、名前の由来の通り大きな布の袋を担いでいる。
諸説あるけど、中には感謝の心と幸せが入っているのだとか。
この三分の一ほどの大きさで10万円と書いてあった。
買えないし、置けないけど、広大な敷地があるなら話は別かも知れない。
我家の小さな庭に巨大な布袋様が来たことを一瞬想像し、植木の剪定をしてくださる
シルバー人材センターの戸倉さんが、通れずさぞかしお困りになるだろうと思った。
店内にはお皿や壺や様々な焼き物が、所狭しとひしめき合っている。
その一角に、小さな七福神がたくさん並べてあった。
布袋さんと目が合った、ような気がして手に取った。
灰焼きや金塗りや素焼きなど、3種類がそれぞれ各10~20、
全部で300以上はある感じ。
いくら探しても布袋さんは私が手に取った一体のみで、後は見つけられなかった。
これはきっと、我家にお越しになりたいのだと。
玄関に鎮座まします小さな六福神。
全員ご不在だった恵比寿さん、きっと今、多くの人に求められて大忙しなんだと思う。
日々在ることに感謝し、いつか我家に来てくださる日を、気長に楽しみに待つことにした。
願い事も人生も、ひとつ足りないくらいが丁度いい。
リセラアカデミー藤川知子
2021年2月26日
京都府宇治市の自宅にて