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  • 中野 裕弓

過去は振り返らない

昨年、親しくなったご近所に住むシニアのご婦人の話です。

ミセスYは87歳、旦那様を5年前に看取って以降も横浜元町近くの大きなマンションにお一人で住み続けていました。

このミセスYと仲良くなったのはほんの1年前。
コロナの時期にzoomで知り合ったロンドン在住の日本人が横浜に旧い友人がいるということでご紹介いただいたら偶然にも私の家から近くにお住まいでした。

Yさんは年齢より若々しくお話も面白いのですが、年々歩行が難しくなってきているということで日常の事はヘルパーさんに来てもらい、

週に一回はデイサービスで体動かすことが楽しみ。

若い頃は院長夫人としてたくさんの人をまとめたり、おもてなしをしていたこともあり、自立していてしっかりした女性。
ご夫婦には子どもはいないので、リタイア後はしばらく2人でポルトガル暮らしをされていたそうでお宅のあちこちにヨーロッパ生活の名残りがありました。

昨年はお天気の良い日は手押しの歩行車でご近所をゆっくりお散歩されていました。

私が車椅子で散策中に散歩中の彼女と出会い、近くでお茶をしたこともありました。
20近く歳は離れていても、アートの事、ヨーロッパの生活、人生について、いろいろ楽しい会話が弾みました。

彼女は、旦那様を見送った後、ご自分のマンションをリバースモーゲージに変えていました。

ということは、マンションは売却し、そのお金でとても豪華なシニアホーム入所の権利をすでに手当していました。
マンションは売却したとはいえ、5年間は賃貸として住む権利もお持ちでした。

当初「私はここ横浜みなとみらいの生活が気に入っているので、あと2年はここに住もうと思っているのよ」とおっしゃっていました。

「でも、ホームにはペットは連れて行けないの。老猫だから病院も大変。誰かが面倒みてくれてるといいんだけれど…」というのが心配事ではありました。

ところが…

飼い主の心配事を猫ちゃんが察したかのごとく、今年の初めに長年の同居人、猫のみーちゃんが16歳で空猫になりました。

以来、急に気落ちしてもう一人暮らしは無理、私はここには住めない。
一人は心細いと感じるようになりました。

そこで急遽、マンション転出、引っ越し、ホームに転入ということになりました。

ケアマネージャーさんや、転出先のホームの担当者がいろいろ手伝ってくれましたが、やはり個人でやらなければいけないこともたくさんあります。

行きがかり上私がそれらの段取りを引き受けることになりました。
電話の取り外し、契約してたもののキャンセル、残していく物の、引き取りの手続きをしたり…

おうちの中は広いし、たくさんの荷物、そしてご夫婦が趣味で求められた大きな絵画、美術品、それらの行き先を決めたり…やることは際限ありません。
そして鍵の引渡しまでの期間はそれほど長くなかったから大変でした。

こういう時、行政や業者さんではなく、家族や友人が関わることがかなり多いのだなと思いました。

私の友人たちも手伝いに来てくれました。
「遠くの親戚より近くの他人」とはよく言ったものです。

家族とは別に地域には地域のネットワークご近所のサポートが必要だとつくづく思いました。

まだ出会って1年未満のYさんでしたが、私ができるお手伝いはご近所の友人としてやらせていただきました。

毎日の作業の途中、お一人様で老いていくことについていろいろ考えることがありました。

こんなデータがありました。

“今、日本では65歳以上が人口に占める割合は、男性が12.5%、女性が20.1%となっており、65歳以上の男性の8人に1人、65歳以上の女性の5人に1人が一人暮らしとなっています”

もし家族がいなければ、諸々のことはその近くの人が手伝うことになるのですよね。

一人暮らしのお年寄りも、コミュニティーの一員として、みんなが家族のように温かく接することができるそういう共同体が理想だなと思いました。

彼女が長年住み慣れた自分の住まいを出て新しい環境に向かう最終日。

最後にドアを閉めての一言〜

「私は過去は振り返らない!」

自分に言い聞かせるようでもありましたが、力強いこの一言。
エレベーターまで歩いていく後ろ姿が凛としてかっこよかったのを思い出します。

ともすれば、

昔はああだった…、あの時はこれがあった…なんて過去のことばかり話すお年寄りも多い中、“今”とそれに続く”未来”しか見ない、と割り切ることの大事さをYさんに教えてもらいました。

初夏に港の見える山の上にある美しいシニアホームに彼女をお尋ねすると、新しい環境を自分流で楽しもうとしている姿がありました。
その姿がとても印象的でした。

クリスマスにはまたお尋ねしようと思います。

2023.11.29
Romi

SNSSHARE

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COLUMNIST
中野 裕弓
人事コンサルタント
ソーシャルファシリテーター
中野 裕弓
HIROMI NAKANO
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19歳で語学研修のためロンドンに渡り、その後9年に及ぶ英国生活を経て、
東京の外資系銀行、金融機関にて人事、研修などに携わる。

1993年、ワシントンD.Cにある世界銀行本部から、日本人初の人事マネージャー、人事カウンセラーとしてヘッドハントされ世界中から集まったスタッフのキャリアや対人関係のアドバイスに当たる。

現在は一人ひとりの幸福度を上げるソーシャルリース(社会をつなぐ環)という構想のもと、企業人事コンサルティング、カウンセリング、講演、執筆に従事。 また2001年に世界銀行の元同僚から受けとったメッセージを訳して発信したものが、後に「世界がもしも100人の村だったら」の元となったため、原本の訳者としても知られる。

「自分を愛する習慣」をはじめ、幸せに生きるためのアドバイスブックや自分磨きの極意集、コミュニケーションスキルアップの本など著書多数。

2014年の夏、多忙なスケジュールの中、脳卒中で倒れ5ヶ月の入院生活を経験する。
現在はリハビリ療養の中で新しいライフスタイルを模索中。脳卒中で倒れたことが人生をますます豊かで幸せなものにしてくれたと語る。

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