Language

メニューを閉じる
  • 中野 裕弓

プロの素人

プロフェッショナル(専門家)と素人、一見相反する2つの言葉ですが、この合体したものが面白いと思います。

特にこれからの変化の多い時代には必要とされる要素でしょう。

何かプロジェクトに関わるときには私はプロの素人の目線をとても大切にしています。

というのも、何かに精通すると、あるいは何かを極めすぎると、それが自分の考えの中心を成し、

そこにとらわれると自論に固執してしまい視野が狭くなることがあるからです。

そうなると自分と違う考えの人に対する寛容さ、オープンマインドに問題が生じてくる場合もでてきそうですね。

また〇〇の専門家、あるいは第一人者となると、常に他者と卓越性を競う体制で、

自分の良いところをアピールするために、ライバルの悪いところを指摘したり、批評したり。

そうなるとフラットな気持ちで他の人の話を聞いたり、応援することが難しくなることもあります。

アメリカで参加したあるワークショップでの出来事。
「太平洋サバイバル」のようなテーマのゲームで、乗っていた船が座礁して転覆、

その時に周りにあるものから優先順位をつけていくつか持ち出しが可能という想定です。

さて、あなたはどう優先順位をつけますかと言うものでした。それをチームごとに話し合いながら物にランキングをつけていくのです。

水、お菓子、ホイッスル、毛布、マッチとろうそく、海図、等々。

チーム分けされてさあ話し合おうと言う時でした。

1人の参加者が「僕は船をもっていて、長年の経験がある。海の上の事は任せて!」と堂々とおっしゃいました。

あまりにも自信満々だったので、その後の話し合いは全て彼が主導する形で、チーム内の対等なコミュニケーションもコラボレーションもありませんでした。

誰かがその道のプロと聞くと、なぜか素人の人たちはすぐ一歩ひいてしまうのですね。

大人の忖度か、経験値なのかもしれません。

正解は何だったのか忘れましたが、私たちのチームは見事外れて順位を落としました。

「俺についてこい」と言う感じで自信満々だったその中心人物はチームの冷ややかな目線の中にありました。

中にはあからさまに「私、初めから違うと思ってたのよ、もっとはっきり言えばよかった…」なんてグチる人もありました。

私がその体験から学んだのは、プロの意見も聞き、各自の思いも伝え合い、

その上で、その時のそのチームでよりよい答えを協議することができていたら、結果がどうであれ、みんなの納得度が高かっただろうなと思いました。そしてチームの中に一体感も生まれ、所属感も達成感も高まり、絆も生まれたことでしょう。

私たちは学歴、資格、実績、なんとかのプロという権威の前では他人と比べて萎縮し、自己評価も低くしてしまう傾向があります。ですが実は何も知らないからこそ、先入観を持たず新しいアイディア、打開策が出てくるのかもしれないのです。

もう一つ、こんな事例もありました。
ある幼稚園の保護者会での講演で
私なりに考える幼児教育の大切さについてお話しさせていただきました。
それは一言で言うと、大人が子どもを上から目線で教える”教育”ではなく、子どもと共に育つ”共育”が大事ということでした。

私は実際に子育ての経験がありません。だからこそお伝えできることがある、と話をしました。もし子育て経験があったならば、本来はそうだけど、実際には難しい…と自分の感情が前に出てお話ししたいことも話せないってこともありますよね。

経験のないことでもイマジネーションを駆使して経験者とは違う視点を提供できる、といつも思っているのです。

会の終了後、副園長先生が感激してお声をかけてくれました。

「私は長い間幼児教育に関わっています。でも、実際に子育てをしたことがないということが、いつも劣等感であり負い目を感じていたのです。

今日のお話を伺って、私だからできることがあるということに気が付きました」と自信に満ちたお顔で話されていました。

これからの時代は、専門家と、そうでない人が、それぞれの目線で
対等なコミュニケーション、コラボレーションが大事だと感じました。
プロの素人、なかなかいい言葉だと思いませんか。

2023.5.17
Romi

SNSSHARE

この記事をシェアする

COLUMNIST
中野 裕弓
人事コンサルタント
ソーシャルファシリテーター
中野 裕弓
HIROMI NAKANO
続きを見る

19歳で語学研修のためロンドンに渡り、その後9年に及ぶ英国生活を経て、
東京の外資系銀行、金融機関にて人事、研修などに携わる。

1993年、ワシントンD.Cにある世界銀行本部から、日本人初の人事マネージャー、人事カウンセラーとしてヘッドハントされ世界中から集まったスタッフのキャリアや対人関係のアドバイスに当たる。

現在は一人ひとりの幸福度を上げるソーシャルリース(社会をつなぐ環)という構想のもと、企業人事コンサルティング、カウンセリング、講演、執筆に従事。 また2001年に世界銀行の元同僚から受けとったメッセージを訳して発信したものが、後に「世界がもしも100人の村だったら」の元となったため、原本の訳者としても知られる。

「自分を愛する習慣」をはじめ、幸せに生きるためのアドバイスブックや自分磨きの極意集、コミュニケーションスキルアップの本など著書多数。

2014年の夏、多忙なスケジュールの中、脳卒中で倒れ5ヶ月の入院生活を経験する。
現在はリハビリ療養の中で新しいライフスタイルを模索中。脳卒中で倒れたことが人生をますます豊かで幸せなものにしてくれたと語る。

他のコラムニストを探す
中野 裕弓の記事
中野 裕弓の記事一覧へ
美と健康の最先端はリセラテラスから メールマガジン登録
美と健康の最先端はリセラテラスから メールマガジン登録
肌改善 リフティング認定